オヤとは?トルコ発祥の伝統手芸、その歴史と現在の姿
「イーネオヤ」「タティングレース」に興味を持ってこのページを訪れた方へ。まず、これらの手芸が属する「オヤ」という大きな枠組みについて、歴史と文化的背景からひも解いてみます。知れば知るほど、針仕事のひとつひとつがぐっと面白くなってくる手芸です。
オヤとはどんな手芸か
オヤとは、トルコのアナトリア地方を中心に発達した伝統的なレース飾りの総称です。
もともとはトルコのムスリム女性が頭に巻くスカーフの縁に施した装飾が始まりとされています。スカーフの縁をそのまま処理するのではなく、花・葉・果物・動物といった小さなモチーフを縫い付けて飾る——そのための技法として、長い時間をかけて洗練されてきました。ブルガリアやギリシャなど近隣の地域にも、よく似た手法の手芸が見られます。

使われる技法は一種類ではなく、縫い針で編むもの(イーネオヤ)、かぎ針で編むもの(トゥーオヤ)、タティングレースと同じシャトルを使うもの(メキッキオヤ)など、複数の技法が「オヤ」という名前のもとに共存しています。各技法の違いについては、別の記事でくわしく解説します。
スカーフ以外にも、テーブルクロスやタオルの縁に同じ技法で装飾を施すことがあり、生活の中に広く根づいた手芸であることがわかります。
花嫁の手仕事として受け継がれてきた
オヤを語るうえで欠かせないのが「チェイズ(Çeyiz)」という文化です。
チェイズとは、花嫁が結婚の際に持参する嫁入り道具一式の総称です。布製品や刺繍、オヤ飾りといった手作りの品々は、サンドゥックと呼ばれる衣装箱に収められて持参されました。花嫁の手仕事の腕前は、そのままチェイズの中身の豊かさとして表れるものとされており、幼い頃から母や祖母に教わりながら、何年もかけて作品を積み上げていく習慣がありました。
技法やモチーフは親から子へ、あるいは地域のコミュニティのなかで受け継がれてきたため、地域ごとに独特の様式があります。アナトリア各地でモチーフの形や使われる素材が異なり、出身地をある程度推測できることもあるほどです。
現在のオヤ事情
残念ながら、現在のトルコではオヤを作る人の数は減少傾向にあります。担い手の高齢化が進み、若い世代への継承が難しくなってきているのが現状です。
スカーフの縁飾りとしての需要は以前より少なくなった一方で、ピアスやネックレス、ブローチといったアクセサリーとしての需要が新たに生まれています。伝統的な形式にとらわれず、現代の生活に合わせたかたちで作品が作られるようになってきました。

また、インターネットの普及によって、地域や国の垣根を越えた交流も生まれています。トルコの作家の作品が日本にいながら見られるようになり、技法や表現の幅も広がりつつあります。
日本でのイーネオヤブームと現在
日本にイーネオヤが本格的に紹介されたのは、2000年代後半のことです。今井瑞恵さん(茜屋)や七海光さんらによる書籍が出版され、手芸好きの間でじわじわと注目を集めました。材料の入手が難しいなかでも、熱心な愛好者がネットを通じて情報を共有し合い、小さなブームとなりました。
その後、2020年前後を境に新規の参入者は少なくなり、現在は静かに続いている状態です。教室やワークショップを継続している作家・団体はありますが、以前ほど活発ではありません。
現時点で活動が確認できる主な場所として、以下をご紹介しておきます。
- ワークショップ・イベント → オヤマニアの会
- 既製品のオヤアクセサリー・糸の購入 → トルコのオヤ糸屋さん
- 現地で作られた古いオヤ(アンティーク) → ミフリ&アクチェ
こうしたショップやイベントのほか、トルコ雑貨店やトルコ料理店でイーネオヤの作品が販売されていることもあります。お近くのカルチャーセンターや手芸店でオヤのワークショップが開催されていたら、一度参加してみるのもいいかもしれません。実際の作品を目にしたり、作っているところを見たりすると、その繊細さや豊かな表現力がより実感できると思います。
トルコの歴史が育んだ手仕事、オヤの魅力をぜひ感じてみてください。
次の記事では、オヤの技法の種類——イーネ・トゥー・メキッキがそれぞれどう違うのかを、図解を使ってくわしく解説します。